時間の呼吸

時間の呼吸
以下は、道元の原文ではなく、『正法眼蔵』に見られる語法・転回・逆説・有時思想・身心脱落・現成公案の運動を極端化して試みた創作である。

正法眼蔵 時間の呼吸(試擬・正法眼蔵調・超高密度)

いはゆる時間の呼吸とは、
時の呼吸するにあらず。
呼吸の時間を経るにあらず。

呼吸すなはち時なり。
時すなはち呼吸なり。

しかあれども、一息を以て一時とすることなかれ。
一劫を以て長息とすることなかれ。

短長は呼吸にあらず。
遷流は時間にあらず。

衆生おほく呼吸を身中の出入とおもへり。

しかあれども佛祖の呼吸、鼻孔にあらず。

山河の起伏、呼吸なり。
春秋の開落、呼吸なり。
生死去來、呼吸なり。

しかも出入なし。

もし出あらば入また對待なるべし。
もし入あらば出また境界なるべし。

佛祖の呼吸、對待を用ゐず。

吸するとき十方を吸せず。
呼するとき萬象を吐せず。

しかあれども十方出入し、萬象開閉す。

これ時間の鼻孔なり。

しるべし。

人おほく思ふ。

呼吸は連續すと。

しかあれども連續は觀念の綴目なり。

前息、後息に移らず。
後息、前息より生ぜず。

一呼は一呼を盡くし、
一吸は一吸を盡くす。

盡くすゆゑに相續あり。

相續あるゆゑに連續なし。

もし連續を立つれば、
呼吸すでに死物なり。

佛祖の呼吸、未生以前に滿ち、未滅以後に周遍す。

しかも未生未滅を留めず。

ゆゑに古佛いはく、

「長く息ふけば天地ともに長し」と。

しかあれども天地、息に隨はず。

息また天地を運ばず。

息、息を呼吸するなり。

呼吸、呼吸を脱落するなり。

ここに身心脱落の消息あり。

坐禪するとき、人おもへらく、我れ呼吸を觀ずと。

しるべし。

觀ずる我あれば、
息すでに境界なり。

境界あれば、
時間すでに切斷せらる。

佛祖の坐禪、息を觀ぜず。

息、坐禪を坐するなり。

坐禪の一息、無量劫を呑吐す。

しかあれども無量劫動かず。

香一炷燃ゆ。

灰となる。

人おもへらく、時過ぎぬと。

しるべし。

香、時を燃やさず。
灰、時間の跡にあらず。

燃焼すなはち呼吸なり。
呼吸すなはち現成なり。

現成は推移にあらず。

推移なくして開展あり。

これを時間の肺腑と稱す。

またいはく。

春風、松を過ぐ。

松聲起こる。

しかあれども風、松に入らず。

松また風を受けず。

聲のみ十方を呼吸す。

流水、巖を洗ふ。

しかあれども水流れず。

巖動かず。

しかありながら萬古呼吸す。

これ時間の脈動なり。

さらにいはく。

佛祖の呼吸、静寂にあらず。

動亂にあらず。

静動未分以前にして、静動脱落以後にあらず。

未分以前を立つれば、すでに時相あり。

脱落以後を論ずれば、なお餘塵あり。

ゆゑに佛祖の一息、

起こらず。
滅せず。
續かず。
斷ぜず。

しかも山河大地、これによりて歴歴孤明。

花開く。

これ時間の吸氣なり。

葉散る。

これ時間の呼氣なり。

しかあれども開落ともに肺腑に入らず。

春は春を吸し、
秋は秋を吐す。

吸吐相循するにあらず。

春秋それぞれ盡十方界なり。

ここに至りて、

佛呼吸なし。
衆生呼吸なし。

しかも盡界、呼吸せずといふことなし。

鐘鳴る。

誰か聴く。

月白し。

誰か照らす。

呼吸、自己を呼吸して、

自己、時間を出入せず。

これを

時間の呼吸

と稱す。

合掌。
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