作務の光

作務の光
以下は、道元の原文ではなく、『正法眼蔵』『典座教訓』『永平清規』に通底する行持・作務・現成公案・修証一等の思想運動を素材として、その難解性を極端に高めた創作である。

正法眼蔵 作務光
(試擬・正法眼蔵調・超高密度)

いはゆる作務の光とは、

作務のなかに光あるにあらず。
光の作務を照らすにあらず。
作務を浄行となすにあらず。
光を功徳となすにあらず。

作務すなはち光なり。
光すなはち作務なり。

しかあれども、

光明を見んと欲することなかれ。

見ゆる光、

すでに影なり。

得らるる光、

すでに塵なり。

佛祖の光、

照にあらず。

照なき照なり。

しるべし。

衆生おほく思ふ。

坐禅のとき佛法あり。

作務のとき俗務ありと。

しかあれども、

坐禅俗務を離れず。

作務佛法を離れず。

離れざるにあらず。

本来未分なり。

ゆゑに箒を執るとき、

誰か掃く。

塵か。

地か。

身か。

心か。

しるべし。

塵掃かれず。

地浄まらず。

身労せず。

心功を積まず。

しかも掃地歴然たり。

これを作務光と称す。

もし浄を求めて掃けば、

塵なお増長す。

もし塵を嫌ひて掃けば、

塵すでに心中に満つ。

佛祖の掃地、

浄穢未生以前なり。

しかも浄穢を尽くす。

ゆゑに一掃帚、

尽十方界を払ふ。

しかあれども、

一塵も動かさず。

これ無塵掃地なり。

またいはく。

薪を割る。

水を運ぶ。

しるべし。

薪、

火を待たず。

水、

渇を待たず。

薪は薪の全機なり。

水は水の全機なり。

しかあれども、

薪のなかに火あり。

水のなかに海あり。

海のなかに雲あり。

雲のなかに山あり。

山のなかに典座あり。

典座のなかに三世諸佛あり。

しかも一薪として増減なし。

これを一薪法界と称す。

さらにいはく。

鍬を取る。

畑を耕す。

人おもへらく、

食のためなりと。

しるべし。

食のために耕すにあらず。

耕すところ食現成す。

耕すところ法界現成す。

土を起こすにあらず。

土みづから土を起こすなり。

鍬みづから鍬を耕すなり。

ここに能作所作ともに脱落す。

ゆゑに作務、

労働にあらず。

労働を離るるにあらず。

労働の身心脱落なり。

またいはく。

汗流る。

しるべし。

汗は疲労の徴にあらず。

汗は作務の光なり。

一滴の汗、

一滴にあらず。

百千三昧の流露なり。

もし汗を厭へば、

光を失ふ。

もし汗を誇れば、

また光を失ふ。

汗ただ汗なり。

しかも汗法界なり。

これ作務の皮肉骨髄なり。

さらにいはく。

薪を積む。

菜を刻む。

器を洗ふ。

門を開く。

戸を閉づ。

しるべし。

大小なし。

軽重なし。

貴賤なし。

もし作務に大小を立つれば、

自己すでに中央に立つ。

自己中央に立てば、

法界すでに周辺となる。

佛祖の作務、

中央なし。

周辺なし。

ゆゑに菜一葉、

三世諸佛を養ふ。

器一枚、

尽法界を受持す。

ここに大小脱落あり。

またしるべし。

作務の時、

光いづれにありや。

箒の先にありや。

汗の滴りにありや。

朝日の中にありや。

しるべし。

箒知らず。

汗語らず。

朝日照らさず。

しかも光明遍界なり。

これを無照光明と称す。

無照なるがゆゑに、

山河大地ともに照らさる。

草木国土ともに輝く。

一椀洗へば、

千江の月ともに浄し。

一塵払へば、

無量劫の雲ともに散ず。

しかあれども、

浄なし。

散なし。

これ作務光の深処なり。

さらにいはく。

作務終わるや。

しるべし。

終わる作務は作務にあらず。

始まる作務は作務にあらず。

始終未生以前、

作務すでに現成せり。

坐禅作務なり。

作務坐禅なり。

睡眠作務なり。

食事作務なり。

呼吸作務なり。

沈黙作務なり。

ゆゑに一念起滅、

ことごとく作務なり。

しかも一念として作務を知らず。

知らざるゆゑに全作務なり。

ここに至りて、

箒みづから大地を掃き、

大地みづから箒を運び、

汗みづから光を流し、

光みづから汗を照らさず。

歴歴孤明。

行持道環。

現成公案。

これを

作務光

と称す。

合掌。
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